「今日はUFOを見つけに行こう」
颯爽と窓際に歩いていった彼女は、振り返りざまにそう言った。
学校の一階、化学室。薬品臭さと胡散臭さが鼻につく、放課後は部活の時間のことだった。
「……部長。相変わらず、言ってることがさっぱりです」
「よし、相変わらず脳の足りてない可愛い後輩だ。では、君にもわかるように説明しよう」
しゅっと腕を一振りする。服がやや大きいらしく、彼女はそうやって袖を整える。
そうして持ち上げた右手、人差し指を立てて、
「父に頼まれた──」
違う。彼女は親指と人指し指で、どこから取り出したのかDVDケースを持っている。
「すなわち、父の務めている小学校で理科の教材ビデオを流すそうなんだが、父が作るのを面倒臭がって私に投げたのが原因だ。たまには変わったことをするのもいいだろう、ということで、現役高校生の作った教材ビデオ、高校生になるとこんな事やるよ、を紹介すると面白いし、より興味を持ってもらえるだろう、という算段らしい」
先輩はディスクをテーブルに置き、指で弾いて僕のところまでスライドさせた。ケースに張られた真っ白なネームラベルから、DVDには何も入っていないようだ。
僕はソレを一瞥して、尋ねる。幾分の忠告込みで、
「ということは高校生らしい感じに仕上げるってことですね?」
しかし案の定、彼女は否定に首を振った。
「そんなものを、君は面白いと思うのか?」
この人はこういう人だった。
心のなかでため息をついて、一応反論してみる。
「面白さって言うより勉強になるかどうかでしょう」
「勉強になって面白ければ一石二鳥だな」
「残念ながらUFOとか普通の授業じゃまず習いません。習っても歴史です。先輩の父親の授業は?」
「科学だ」
生物系ならまだチャンスはあると思ったけれど、今やっているのは物理系の授業らしい。彼女の脳は今日もマッハでぶっ飛んでいて、とても僕には追いつけそうにない。
「まあどの道。最近碌な活動もしていなかったから、今から裏山だ。これは決定。今日の部活はUFO探しIN裏山。はい拍手。必要な装備類は今朝準備室に運んでおいたから、早速行こう」
早口に切り上げ、彼女は制服のスカートを翻しながら僕の脇をすり抜けていく。
仕方なく、残暑の暑さに倒れ伏していた体を起こし、丸椅子を押しのけ、準備室へと彼女の後をついていく。僕と先輩の、いつものスタイル。
結局のところ。
そのサラサラで艶のある髪に、大人びた、けれどやや子供っぽさも残した顔立ち。そして抱きしめるにはちょうど良さそうな背丈と体つき。
どれをどう取ったって、僕が彼女にベタぼれなのは間違いなかった。趣味ドストライク。俳句に表せと言われれば字余りになるほどの想い。美しくないところも手伝って例えとしては最適だ。
なので実のところ、彼女がやることなら、余程のことでない限り本気で否定なんてするつもりなどないのだった。
そんなこんなで裏山である。
標高二百か三百メートルくらいの山は、そりゃあ世界のキリマンジャロやらエベレストからしてみれば赤子のような高さだけど、僕の足にはそれなりに堪えた。
言い訳させてもらうなら、9月にもかかわらず真夏に等しい日差しの強さ、やたらと重い背中の謎の機材、そして彼女の歩速があるのだが、3つ目は何一つ問題ではない。問題は自然と人工物。
しかしながら、彼女も僕も制服だ。
はじめのうちはハイキング道、少なくとも獣道程度の場所をうろちょろしていたはずだったが、
「こんな道からUFOが不時着しているような場所にたどり着けるはずがないだろう?」
という、当たり前の響きが道中を過酷にせしめた。
唯一の救いといえば、彼女のスカートから伸びるスラリとした足を合法的に眺められるということで、青少年としては大いに歓迎かつ頑張るための意欲を湧き起こす。その他の欲望も多少は。
次なる問題は、それもそろそろマンネリ化してきて、次の刺激か、あるいはゴールなど欲しいところだという、そんな感情の変化が大いに僕の中で渦巻き力を貯めていることだ。爆発までは日差しに照らされる導火線の忍耐力にかかっている。名前は理性。
ごまかすように、声を上げた。
「部長ー。さすがに疲れたんですけど、目的地はまだですかー?」
「ん?」
聞こえなかったらしく、そして思ったより勢い良く振り返る部長。スカートがふわりと浮き上がり、次の刺激が、しかし姿を見せることはなかった。ポシェットが押さえつけて邪魔をしたのだ。おのれ。
「目的地は──どうした?何か残念そうだな」
「いいえ別に」
口元に笑みをたたえた部長から顔をそらす。なんというか、性格を読まれている。
「安心しろ。目的地ならもうすぐそこだ」
「了解です」
返事をして一歩を踏み出してから、ふと首を傾げる。
裏山にUFOというのは漫画とかフィクションの世界ではありうる、それどころかよくあると言ってもいいかもしれない話だが、現実で起こるとなるとそれなりの理由がいる。その存在を感じたとか、何の気なしに行った場所で遭遇なんてのは、普通の生活を送るただの学生にとっては論外だ。
けど部長は頭おかしい人だから、もしかすると漫画が理由という可能性もあった。その場合はここまでかかった労力に対して慙愧の念が耐えない。あと導火線がピンチだ。火がつく。
心の導火線をかばいながら足を動かしていたが、ふと、部長が後ろ向きに山を登っているのに気づいた。つまり彼女はこっちを見ながら山を登っていた。いつからか知らないが、器用なものだ。
口端をわずかに釣り上げて、楽しそうに、
「ふふふ。なぜ私が裏山を選んだか知りたいか?」
「心を読まないでください。いや、読むのは勝手ですが口に出さないでください」
「はいはい。分かった分かった、気をつけよう。で──ここを選んだ理由を知りたいか?」
肩をすくめる先輩の返事は、絶対わかってない声だ。問答するだけ無駄やつ。
ため息一つ、心に一区切りを入れる。
「そうですね。ずっと無言で歩いているのもなんですから、説明して欲しいです」
「残念ながら、そこまで長い話にはならないんだが」
汗もかかず、彼女は前に向き直ると、僕を先導しながら説明を始めた。
「実は昨晩UFOを見たんだ。どこかに降り立ったようだからその場所を計測して、裏山のこれから向かうポイントを特定したわけだ」
確かに簡潔だった。わかり易かった。しかも僕を黙らせるのにも十分だ。どこからツッコんだらいいかわからない。
「と、まあラッキーなのか何なのか──ん。ついたみたいだぞ」
「……まじですか」
目の前は、やや開けた空間になっていた。それも、自然なものではなく、おそらく人工的なものだ。幾つかの樹木が、上からの圧力でひしゃげたように折れ曲がっている。
結構、それっぽい光景だった。UFOの墜落現場と言われても信じられそうなシチュエーションが目の前に広がっている。
先輩はいくつかの折れた木に目を配りながら、
「ふむ。何も残ってないのか……どちらにせよ間に合わなかったことだけは確からしいな」
ひと通り広場を一周する。足場は悪いし、ささくれだった木もあるので、さすがに歩みは遅かったが。
「先輩。その、UFOが落ちてきた前提やめましょう。僕たちは現実的に考えるべきです」
「……それは君の理想の現実だろう?それはもう、現実的とは言えないはずだ」
「常識っていうファクターは物事を判断するのに必要だと思いますけどね」
少なくとも恥はかかない。けどそれは、今という時代においては酷く重要なことだ。僕は食い物にされるのを喜んで受け入れるような性質は持ち合わせていない。
ちょっとの失敗でこれでもかというほど叩かれる。テレビから得た教訓だった。真実ではなく、誰もが納得するものを。そのためには、突飛な意見は口にすべきじゃない。
けれど先輩は、そんなことを気にする性格じゃなかった。
「まあ、とりあえずこの場所を中心に色々探ってみようじゃないか。そんなにだらだら続ける気もないし、すぐに見つかるだろ」
「あなたは漫画か何かの主人公ですか」
「ははは。せいぜいヒロインにはなれるかもしれないくらいだよ。そうでなければ先輩A」
人を勝手に主人公にした物語を作り上げて、先輩は颯爽と森の奥へ進んでいった。いくらブーツでも、スカートでああいう道を行くのは危ないんじゃないだろうか。
心配せども、声は出さず、出せず。
期待せずに、僕はリュックを下ろす。ちょっと気が抜けて床に落ちたそれは、何本かの枝に断末魔をあげさせた。しかし枝は折れても枝だ。コイツらは死ぬことはないのかもしれない。でも焼けば灰になるだろうから、そのとき枝は死ぬのだろうか。そして灰が生まれるのだ。
暑さで沸き始めた頭を振ると、幾つか雫が飛び散った。意識し始めると、汗はまとわりつく気持ち悪さを主張してくる。
汗を努めて意識しないようにと意識して──むろんこの時点で失敗しているのだけど──リュックからビデオカメラを取り出した。他には判別つかない機材ばかりだったからだ。視界に写ったスポーツドリンクはそれはそれは魅力的だったが、気合で無視する。先輩を差し置いて飲むことはできない。例えあちらのほうがスペックが高くても。
カメラを構えると、背後でまた一つ枝が死んだ音が聞こえた。
先輩だ。丁度いい。カメラの使い方もわからないし、喉も乾いた。場所があれだけどひと休憩くらいは入れてもいいだろうと打診すべく、僕はカメラ片手に振り返った。
「ちょうどよかった。これ、どうやって使う──」
「こんにちわ」
枝殺害事件の犯人は、先輩にあらず。似ても似つかない見知らぬおっさんだった。
身長は多分180程度。僕より遙かに高い。しかもK1選手だと言われれば信じられそうなくらいにガタイが良かった。万一襲ってこられたりした日には100パーセントボコボコだろう。そして外人っぽいので言葉が通じない恐れもある。
つまり僕はピンチじゃないか。
どうすればいい。どうするべきか。選択すべきラ○フカードは。などと途方に暮れていると、敵は片腕を持ち上げ攻撃態勢に移ろうとしている。
そしてまたしても背後から枝の断末魔──もういいなこのネタは──が聞こえてくる。挟撃されたらいよいよ1パーセントの可能性も残らない。
目をつぶって覚悟を決める僕の耳に飛び込んだのは、気の抜けた、けれどそれはそれは慣れ親しんだ音だった。
「お?」
「せ、先輩ですか」
ん? と腕組み仁王立ちで首を傾げる我らが先輩。ちなみに彼女の運動神経は普通よりちょっと良いくらいである。5段階評価通信簿でかろうじて4のレベル。
すなわち、戦力は増えたが、コトを荒立てれば間違いなくやられる。
けれど愛しき人の登場に、僕の心は平常心を取り戻していた。冷静に、状況を判断する。
(先輩。ここは穏便に……!)
必死のアイコンタクト。通じてくれたらしく、先輩は一つ、ゆっくり頷くと、
「宇宙人を見つけたのか。さすがだな」
とんでもない爆弾を投下して行きました。いや、何処にも行ってないけど。つうかアイコンタクト通じてねぇー。
そして爆心地につったってる人間としては問題が一つ。実際の爆弾と違って、おっさんの表情は変わらず、被害状況がこれっぽっちも判別できないということだ。
様子見の、無言の時間。
照りつける日差し以外の理由で汗が出始めた頃、おっさんはわずかに笑った。
「何故、そう思いますか?」
(ノッてきた……!?)
思わず勢い良くおっさんを見てしまい、目が合う。
現状、僕の方から何を言ったところでやぶ蛇にしかなりそうもないので、ビデオカメラを引っさげて棒立ちという間の抜けた格好で目をそらし、しばしことを静観することにする。
あと言語が同じでしかもわりと流暢。交渉の可能性があるだけでも今は救われた気持ちだ。先輩の最初の一言さえなければ。
彼女は質問に答えるべく、広場へ入ってきながら口を開く。
「一応これでも町の人間くらいは把握している。赤子まで覚えているかと言われるとさすがに不安だが、大人なら問題はない」
ちょっと待て。
真顔でわかりやすい嘘をつくものだから心の底からツッコミ入れたかったが、歯を食いしばってなんとか耐える。先輩にも考えがあるはず。台無しにしてはいけない。
僕から見れば茶番劇にしか見えないそれを、先輩は真顔で続ける。
「そうなるとあなたはどこからか引っ越してきたことになるんだが──引っ越したばかりの人間がこんなところに、しかもそんな普段着で来るわけがないだろう」
ああああ。ツッコミてえええ。
人の内心を完全無視で、先輩は人差し指を立てた肘に左手を添えて、ポーズを取りながら一言一句を決めていく。見た目キマっているのがムカつく。
そしてトドメが、
「まあそもそも」
あっけらかんとした笑顔で、
「普通宇宙人見つけたなんて電波なこと言われたら、コイツ頭おかしいんじゃないかっていう反応返すのにあなたは初対面でノッてきたのでおかしいと思ったんだけだけどな」
「最初っからそう言って下さいよ!」
「何故微妙に怒ってるんだ?」
MP使うと怒りっぽくなるものです。
話が脱線しそうな一言を飲み込んで、自称宇宙人に向かい合う。
「で、実際どうなんですか」
蓋をして中身を押し込めたような声音になったが、彼は気にした様子もなく肩をすくめて、
「別に隠すことでもないですし、宇宙人ですよ?」
頭痛がした。
「いや、どこからどう見ても普通の人です。余計なお世話かもしれませんが、あんまりそういうこと言ってると頭おかしい人だと思われますよ?」
何も頭おかしい人に合わせる必要はない、という意味だったのだが、自称宇宙人は顎に手を当てて真剣な表情だ。
「そうですね。別に擬態も完璧というわけではないですし」
「いやだから──」
言葉途中で、頬のあたりを何かがかすめた。
「こらこら。可愛い後輩を傷つけるな」
「これは失敬。コレが一番手っ取り早いかと思いまして」
あはははは、と笑い合う他二人。自称宇宙人は後頭部に手を当ててそれらしいポーズをとっているが、もう一方の手、その指が伸びて僕の後ろにある木に一直線に突き刺さっているので笑えない。頬が痛いのとか、変化した部分の指が銀色なのも笑えない。
幸いなのは、普段からの先輩との無茶で、わりとこういう突発的予測不能事態に対する対処能力は上がっていて、うろたえずにすんだことくらいか。
しかしまあそれと実際に動けるかとは話が別で、足元以外は固定のままで先輩のそばに移動して小声。
「どうするんですか。これ、うかつにビデオ撮ろうものなら一撃で仕留められますよ」
「ははは。全くだな」
笑ってる場合か。
というかそもそも普通に宇宙人に遭遇してしまうあたりどうなんだろう。CMに出てたようなコーヒー飲んでる温厚派宇宙人でもなければ、自転車のカゴに乗って空を飛ぶ本気宇宙人でもない。一致する例がないので、想像力は悪い方へと全力で加速していく。
正直、今すぐ全力で逃げ出したかった。
進退窮まって固くなった身体、その背中を、先輩がぽん、と叩く。
「そんなに怯える必要はない。今すぐ帰るぞ」
え、と聞き返す間があればこそ、先輩は一歩を進みいでて、伸ばした指をでろんと落としたままの宇宙人に向かい合う。
「それじゃ。私たちは帰るよ」
お辞儀。宇宙人も同様に。
「ああ。さようなら。また街で会ったらよろしく。ひと通りの知識はつけたつもりだけれど、応用力はそんなになくてね。だから風体はこの国の人間にとって外人みたいだろう」
水っぽい厭な音を鳴らしながら、宇宙人の指が戻っていく。最後になんとなく、その様子を見送った。
指が戻れば、彼はどこからどう見てもただの人間で、片手を挙げて去っていく様は、どう見ても親しい人が挨拶を終えて去って行く時のものだった。
さて、結局今回の部活は何だったのか。
結論から言ってしまえば、先輩は無事宇宙人の映像を手に入れることに成功していた。
僕は使い方がわからずにビデオ片手にぼーっとしていただけだったけれども、先輩は小型カメラなるものを肩に掛けていたポシェット内に所持しており、それで宇宙人の手が伸びる様子を一部始終記録していたのだった。
つまるところ、当初のUFOを見つけに行こう何故ならば小学生の理科学習ビデオのために、という計画は失敗したものの、二次的な目的である宇宙人の一部能力をカメラに収めることはでき、これを元にビデオを作成することも可能だった。
要するに先輩は当初の予定を完遂することができ、宇宙人も、まあそんなビデオが彼女の父親であるところの仮にも教員の審査を通るわけがないのだから、自分の存在を隠し通すという目的は達成できるわけだ。……これだと彼女の予定は完遂できてないけど。
とまあ、ここまでが僕の頭の中と過去の話。実際は、
「どうなったんですか?あの科学のDVD」
科学室のテーブルに突っ伏して暑さにあえぐ先輩に聞くしかない。右手にはうちわ。
「んー?ほら」
テーブルに投げ出したままのカバンから、一枚のDVDがよこされる。シールには丸文字で"良い子の科学"と書かれていた。とても胡散臭い。
体を起こし回転。テーブルを背にして肘をかけて、先輩がうんざりとうちわで扇ぐ。
「しかし最近は暑いな。うちわだけじゃ全然足りない。仮にも化学室なんだから部屋が冷凍室でも問題ないだろうに」
「問題ありありです。それ普通の人死にますから。で、これは見ても?」
「良くなかったら渡さないよ。そこのテレビを使うといい」
それじゃ、と化学室備え付けのワイド薄型テレビに接続されたDVDプレーヤーを起動、良い子の科学を再生する。
編集は割と凝っていて、普通の科学番組と大して変わらない出来になっている。彼女ならそれ以上の物を作れるだろうから、これはあえてそっちのレベルに合わせたのだろう。まあ学校向けの教材でかっこいい感じにしても、ふざけるなと各所からクレームが来るか。
内容もオーソドックスなもので、高校の物理と生物の一つの概念を、それぞれ面白おかしく実技で証明して、こんな数式で全部計算できるんだよ的な感じにしている。見せ方は普通に面白い。
ただ肝心の宇宙人は、言葉は愚か、背景にこそっと入れるような真似さえされていなかった。いや、先輩ならもっと姑息な方法で入れかねないが、それでも当初の目的にしてはおとなしすぎる。
「……あの、UFO云々は?」
「うん。本当に見つかるとは思わなかったな。ちなみにビデオは小学生には好評だったそうだ。弾性力の実験なんかは、男子どもはその場で自分たちを題材に、タックルで人体実験を始めてけが人を出したとか」
「そういうアグレッシブレポートはどうでもいいです。ていうかよく責任取らされなかったですね」
普段からそんな感じだそうだ、という返答に、僕は深く追求することをやめた。
DVDを取り出して、先輩に返す。
こうして、科学部後期最初の活動、UFOを探しに行こう、は幕を閉じた。
実質的に成果がなにもないのも、いつもどおりだった。
「あー。それにしても暑すぎるな。部費で扇風機でも買うか。なんか風使う感じの実験でも探して」
「残暑も厳しいですからねえ」
こっちのうちわも先輩へ向けてやると、身体を回して、うあ〜、とかだらしなく体をテーブルに投げ出した。動物園のパンダっぽい。
そんな先輩に、目を合わさずに尋ねた。
「それで、先ほどの質問の回答は?」
「ん〜?」
「なんで宇宙人出さなかったんですか」
先輩は、わずかに体を起こし、額に指を当てて目を閉じる。
しばし考えて、
「面白いからに決まってるだろう」
「誰が?」
「私が」
彼女は、こういう人だった。
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