9月26日

BACK NEXT TOP



 どれくらいの時間が過ぎたでしょうか
 今日は一向に、私を呼びに来る気配がありません
 看守さんも一度も姿を見せていません
 あまりに静かだったので、独房を破壊しました
 何本か指の部品が火花を散らしましたが、この程度で済んだのであれば僥倖でしょう

 階段を昇り、体当たりでドアを破壊します
 待ちうけていたのは、蛍光灯とは違う、陽の光でした
 差し込んでくる光を受けながら階段を上ると、そこには何もありませんでした
 階段の先にある一階の部屋すら、周囲の家も、町も、何もかもがなくなっていました
 ここにあるのは、風に吹かれる私と、周囲にある何らかの瓦礫だけ
 黒い何かの中には、一目では判別しがたいほどに変形した人間がいました
 近くには戦車と思しきものがあり、半分ほどがひしゃげて、停止しています
 生体反応はありません
 そういったものが、幾つも転がっていました
 これと同じことを繰り返していたのでしょう、私という兵器は
 こうするように言われ、ただそれを繰り返しただけです
 結果は、基地にあった墓地、それを前にした隊員さんたちを見れば明らかです
 何の疑問も抱かず、私は無数の慟哭を生みだしていたのです
 
 いくつかの黒がやってきました
 戦況はどうなっているのかわかりませんが、はるか先には、まだ町が残っているのが見えました
 どうするべきでしょうか
 のんびりと日記を書いている場合ではありませんが、
 私には、ここで朽ち果てることと、まだ何かを破壊することの二つが選択肢として存在しています
 
 そして私は、悲しみを生みだすことを選択しました
 
 相手が守るために戦うのであれば、私もまた、私自身の存在を守るために戦いましょう
 それでは、戦闘行動を開始します
 
 この世界はもう駄目かもしれません
 しかし、私はまだ動いています
 そう在ることを望まれたのですから、私はそのように動きましょう
 博士は今の私を見て、どう思うでしょうか
 
 左腕は引きちぎれ、至る所から火花を散らし、何か所か内部が露出しています
 起動時間はそう長くはないでしょう
 しかし、僅かな可能性を信じ、私は移動します

 それでは、本日の行動を終了いたします 


BACK NEXT TOP


Copyright(c) 2010 YOSHITOMO UYAMA all rights reserved.