9月10日

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 助手さんと一緒に、バイトさんの死んだ場所へと向かいました
 上官の許可が下りてジープを貸してもらえたので、さほど時間はかかりません
 往路で彼女は一言も言葉を発さず、窓の外を眺めているばかりでした
 
「なーんにもないね」
 バイトさんが死んだ場所について、彼女は開口一番そう言いました
 戦場。幾度となく破壊に撫でつけられ、瓦礫の一つも残らない更地です
 座標は登録してあるので、正確にバイトさんが撃たれた場所へ案内します
 彼女はぼんやりと立ち尽くして、その一点を凝視し、
「ばーか」
 わずかに口端を歪めて、一言だけ呟きました
 思うところがあるだろうと背を向けた直後、私の包囲網が接敵を確認しました
 ジャミングがかかっていることを条件づけに入れなかったのは、私のミスです
 長距離ミサイルの着弾。助手さんと私の距離が開いてしまいます
 各部ブースターを展開して、接近、伸ばした腕は、しかし彼女によって弾かれました
 予測外の衝撃に処理が乱れます
 表情はうかがえず
 集音したところ、彼女はただひたすら、彼の名前を呼び、何故と叫び、泣いていました
 もう、私の言葉は届かないのでしょう
 無理にでも連れだそうとしましたが、私の視覚は飛来するミサイルを確認し、
 急速に彼女と距離を取る判断をしました
 着弾し、彼女は吹き飛びます
 
 それから、私は最適の処理で最短の処断を行いました
 全てを終えて、私は彼女を回収します
 いくつかの部位を回収して、彼女は何を墓標とするのか、判断に迷いました
 
 結局、彼女はバイトさんと同じ場所へ埋めることにしました
 何故彼女があのような行動に出たのかは、私には決して理解できないことなのでしょう
 
 冷たくなった部屋で、私は本日の行動を終了いたします


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