8月19日

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 今日はバイトさんとチェスというものをしました
 一度人工知能とチェスをしたかったそうです
 私は彼にルールを教えてもらい、ゲームを開始しました
 
 チェスの途中、彼は昨日死んだ隊員の方々について訊ねてきました
 人の死についてどう処理をしたか、という意味だそうです

 私には人が死ぬというのは当然のことだというデータがあります
 それが早いか遅いかといった尺度については、
 おそらく周りの環境に依存することだろうという判断もくだしています
 従って、このような環境にあっては、いくら彼らが年若いといっても、
 死んでしまうのは必然でしょう
 
 そう答えるとバイトさんは、うらやましいこった、と煙草を燻らせました
 では、彼はどう考えているのかを尋ねると、
 残酷な女だな、お前は
 と苦笑しました
 彼は普段から何も得ようとしていないそうです
 そうすれば、何も失うことはないから、悲しくはないと言っていました

 ゲームが終わって、彼は私を好ましく思うと言いました
 戦場での私を見ていると、私が死ぬ瞬間なんて、微塵も想像できないからだそうです

 お前は今、何のために存在している?
 彼はそう、問いかけました
 しかし私は学習するように望まれはしたものの、
 何をしろという明確な命令を与えられてはいません
 学習は手段であり、目的ではない
 博士は、私に目的を与えなかったのです
 
 バイトさんは、本当ならお前は、
 戦争に勝つことを目的としてインプットされるはずだったと言いました
 ですが登録されていない以上、私はそれを目的とみなすことはできません
 だから彼は、私に、目的を見つけろ、と笑いかけました
 理由は教えてくれませんでしたが、記憶容量の余剰分を使用するのに支障はありません
 そもそもそれは、私自身求めることだからです
 
 それでは、本日の行動を終了します


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