8月4日

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 二日後に検査を控え、私の状態は万全でした
 射撃訓練は現在、狙撃のレベルまでをクリアし、場所も外へと移っています
 博士に訊ねたところ、
 この分だと次の検査までに全ての射撃訓練をクリアするだろう、とのことでした
 博士の表情はすぐれませんでしたが、次の検査には改善されていることでしょう
 
 訓練が終了した頃、バイトさんに博士の部屋に寄るように言われました
 ノックをして私の来訪を告げると、中でいろいろなものが崩れ落ちる音がしました
 私を出迎えたとき、彼は昨日できた額の怪我を押さえていました
 博士は私に意図を訊ねましたが、バイトさんに行けと言われただけだと答えると、
 ため息をついて黙りこみました
 私は博士の部屋に入るのは初めてです
 彼の部屋は煙草のにおいが染みついていて、また、本に埋め尽くされた部屋でした
 本とベッドとデスクが置いてある他は、釣竿が二本、デスクの横に立てかけてあるだけです
 何の本を読んでいたのかを訊ねると、ただの暇つぶしだと言って私にそれを差し出しました
 タイトルは、旬の野菜辞典でした
 彼の故郷は農家で、時期になれば家族で田植えに帰っていたようです
 腰が痛くなって大変だと不平をこぼしていましたが、
 反対に、彼の表情は笑顔でした
 そして彼は、生きているものより野菜というのは育てやすい、と言いました
 それなら、休みが取れたときに生家に戻って作ってみてはどうか、と提案すると、
 彼はそれもいいね、と微笑みました
 笑顔で語られることが多いということは、彼にとって生家はよいところなのでしょう

 部屋に戻ると、バイトさんが夕食を待っていました
 即座に取り掛かり、しょうが焼きを作成します
 食事中、私はバイトさんに生家のことを訊ねました
 彼ははじめ成果と勘違いしていましたが、意図が伝わると、苦笑しました
 捨て子なので生まれた家は知らないそうです
 だから、彼にとって故郷と呼べるものは、その孤児院だけだそうです
 
 捨てられた子供というのは、どのような意図を持って生まれたのでしょうか
 私と同じ、何も望まれることなく、ただ作り出されただけなのでしょうか
 
 どちらも、判断を下すには早計でしょう
 本日もまた、疑問を登録して行動を終了いたします


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