7月27日

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 今日は初めて風邪というものを体験しました
 もちろん私が風邪をひいたのではなく、風邪をひいた人を見た、という意味です
 訂正します、見たのではなく、お世話をしたという方が正しいでしょう
 研究所で職員の方が何をしているかは知りませんが、皆一様に忙しいのは事実です
 ですから風邪をひいた職員の面倒を診ることは、
 自分が風邪をひくこと、仕事の時間を取られること、
 この二つのマイナスがあります
 よってバイトさんが私を動員したのは正しい判断でしょう
 私には病気や怪我の対処についてのデータも保持されており、風邪をひくことはないので、
 作業に不安点や不足点はありません
 
 風邪を引いたのは助手さんでした
 バイトさんが持ってきた薬を飲んだようなのですが、彼女はベッドにうつ伏せになっていて、
 腕ははみ出て床に落ちていました
 その手は床に置いてあるタライの中に入っていて、タライには水が張ってありました
 他に部屋に備え付けのレンジには、溶けるチーズの山が溶けて一つになっていましたし、
 冷蔵庫には野菜がきれいに整列していました。ネギのような長い野菜も縦に並べられていたので、
 冷蔵庫が閉まらなかったようです
 何があったのかを助手さんに問いかけると、
 あの男……殺してやる、といううわ言が聞こえました
 よく分かりませんが、ひとまず冷凍庫にあったアイス枕にタオルを巻いて頭の下に敷いてあげ、
 布団も胸元辺りまでかけてあげました
 それで少し落ち着いたようなので、彼女が起きるまでに片づけと食事の作成を行うことにしました
 何故こうなったのかは、後に確かめることにしましょう
 
 しばらくして彼女の目が覚めると、昼食を食べれるかを訊ねました
 頷きが返ってきたので、私は梅粥と緑茶をテーブルに並べました
 それからもう一度寝ると、彼女はすっかり良くなっていました
 風邪にしては治りが早いので、データの書き換えが必要かもしれません
 
 夜になり、夕食を摂っているときに、私はバイトさんに昼間のことを訊ねました
 すると彼は苦笑して理由を教えてくれました
 何でも実家から取り寄せた、効果と副作用が最高の薬を助手さんに渡したようです
 治りが早かったのは、この薬のせいでしょう。データを元に戻します
 副作用というのは、簡単に言えば幻覚作用だそうです
 一般の市場に出回っていていいのかと問いましたが、
 自家製なので大丈夫だそうです
 夕食が終わると、バイトさんは笑顔の助手さんに連れて行かれました
 
 人というのは不思議なものです
 あえて危険なものに手を出すのは、何故でしょうか
 疑問は尽きることなく、本日の行動を終了いたします 


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