朝、バイトさんは部屋に訪れませんでした
代わりに姿を見せたのは博士です。彼は今用事で出ているとのことでした
朝早くから用事があるという事実には疑問があります
彼は私の話し相手になるために来たとのことでした
そのことは日記にも私の記録にも確かに残されています
しかし振り返ってみれば、彼は私と話をするということをあまり行っていませんし
話をするだけであれば研究所の職員の方だけで事足りるはずです
博士がフレンチトーストをほおばるのを眺めながら、私は彼を探しに行くことを決めました
屋上でバイトさんを見つけるのは簡単でした
道すがら職員の方に訊ねたり、熱源感知を利用して手当たり次第に確認すれば済むことです
彼は寝転がっており、しかし本当に眠るのではなく、空を眺めていました
私は彼の隣まで足を運び、腰をおろしました
そうして彼に、あなたは何のためにここに来たのですか、と訊ねました
彼はしばらく何も答えませんでしたが、私が二の句を告げようとした直後、
お前は何のためにここにいるんだ、と訊ねてきました
しかしその問いかけに対する返答を私は持ち合わせていません
何故なら私は目的というものを設定されていないからです
そう答えると、彼は姉とは違うんだな、と苦笑しました
姉というのは何のことかわかりませんでしたが、彼に説明してもらったところによれば、
私の試作品となった機体のことだそうです
残念ながら、今は破棄され、研究所に保存されているようです
昼もまた彼は屋上へと向かうようだったので、私も後に続きました
はじめは食事の話でした。私は何故食事を作れるのかという話でしたが、
そもそも私は機械なので、記録されている動作であれば行うことは可能です
すると彼は、お前の姉はそうじゃなかった、と呟きました
試作機は、基礎的なこと以外は自分で学習し、動作するものだったようです
従ってデータを登録するのにも時間はかかり、とても何かの役に立つものではなかったようです
バイトさんによれば、博士の道楽だということです
結果だけを見れば破棄されているようですが、何があったかは彼も知らないことのようでした
ただ、彼女のようにはなるなよ、と言われ、あとは二人で空を眺めるだけでした
結局今日はいろいろと知ることができ、しかし何も分からないままに終わってしまいました
起動してからというもの、処理途中の情報ばかり増えていきます
いつかは処理が完了した時、まとまったデータセットとして登録するために記録を保持し、
本日の行動を終了します
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