7月21日

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 今朝の朝食は、バイトの方の要望を元に、白米、焼鮭、味噌汁、海苔、納豆という和食にしました。データの照合をしたところ、副菜が多めに感じられます。しかしバイトの方は白米をおかわりすることで、そのバランスを整えました。

 それからはいつものようにバイトの方と話をします。基本的には私が話を聴き、質問をして、といった行為を繰り返すのみです。そうしていて気づくこととしては、彼の話は外に関するものが多いということでした。買い物に行った時の話、グラウンドを何周も走った時の話、上司に怒られた時の話、同僚と夜中に外でカップラーメンを食べた時の話など、私には情報としてしか存在しない出来事の話ばかりでした。昨日のことも影響があるのでしょうが、特に私にとって気になる単語は、天気のことでした。どうやら青空は夜になると、星空になるそうです。

 昼になり、昼食も親子丼とお吸い物という和食で済ませると、私は博士のところに行ってみました。バイトの方と話をして、私は外というものに興味を持ったからです。外に出ることを禁止したのが博士なら、彼は私が外に出ることを禁止される理由を知っているはずです。しかし彼の答えは、君は外に出る必要はないからだ、の一点張りでした。それについてバイトの方ともめているようでしたが、詳しい内容は聞くなと言われたので、一時的に聴力をゼロに引き下げました。最後に聞こえたのは、契約と違う、という言葉でした。話し合いが終わると、私はバイトの肩に手を引かれ、外に出ました。博士に呼びかけましたが、反応はありませんでした。バイトの方は、感情の問題だ、と肩をすくめていました。

 感情の問題とはどういうものでしょうか。感情というものを情報としてしか登録されていない私には、分析することが難しいものです。ただ疑問として提示されるのは、博士が契約を守らなかったこと、バイトの方との言い争いだったはずなのに、私にまで口を利いてくれなかったことがあげられます。これらもまた、感情の問題と一言で片づけられるのでしょうか。更なる分析が必要だと判断されます。

 また、博士は外に出る必要はないと言いましたが、だとすれば、私の中に天候の定義データが存在するのも、矛盾になります。人間はどうして、こうも支離滅裂なことをするのでしょうか。機械である私には認識の難しいことです。

 夜になると、バイトの方がやってきました。いつもより早い時間だったので、私は食事を準備していませんでした。その旨を伝えると、彼は楽しそうに私の手を引きました。折角だから、今日は外で食事をすればいいと告げました。私は、そんなことは博士が許すはずがない、と反論をしましたが、彼は大丈夫だと断言しました。そうして向かったのは、いつか彼を見つけた、屋上への階段でした。つまり、屋上ならば敷地内ではあるということなのでしょう。フェンスに囲まれた場所には、助手さんと、そして博士が既に座っていました。二人の前には日本酒とお好み焼きがありました。博士は一言も話しませんでしたが、誰かといさかいを起こすということはありませんでした。バイトの方はそんな博士に話しかけては楽しそうにしていました。助手さんはそんな彼を見て苦笑し、博士は声を荒げて追い払おうとしていました。ただ、どうしてか喧嘩にはなりませんでした。

 その日、私に屋上の使用許可が出ました。理由は分かりませんが、記憶容量を使用するのには有効な手段がとれるということです。その知らせを持ってきてくれた助手さんは、馬鹿に感謝するといい、と言っていました。彼女が馬鹿と称するのはバイトの方のことでしょう。彼にはお礼を言わなければならないと記録して、今日は活動を停止します。


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