起動時間を早めに設定したため、今日は彼が来る三時間前に起動しました。しかし特にすべきことはないので、所定の時間になるまで嘘について考えていました。結論は出ませんでした。データ不足が原因だと判断します。
朝、所定の時間に彼はベルを鳴らしました。今日の朝食はクロワッサンとコーンスープでしたが、彼は米が食べたいとのことでしたので、明日から朝食は和食ベースに変更します。その後は彼とお話しをしました。話の途中で嘘という単語が出たので、私は、どうして嘘をつく必要があるのかを訊ねてみました。すると彼は、嫌われたくないからつくんだよ、と言いました。私のデータには、嘘をつく人は嫌われる、とあったので、彼の理由はおかしいと思いました。ですが、彼は笑って、何も答えませんでした。
昼になったとき、バイトの人が所定の時間にあらわれなかったので、私はまた探しに出ることにしました。生体反応をサーチしながら研究所内を進み、効率的に事を運びました。しかし助手さんは仕事中で、彼の行方を知らないと言っていました。同時に、私を放っていることを怒っていました。博士も同じですが、私を放っていることについては、苦笑するだけでした。他の研究員の方々にも話をうかがいましたが、有用な情報はありませんでした。仕方がないので感知した生体反応を順に追っていくと、屋上に反応がありました。屋上は外になるのかどうかを考えましたが、建物の一部であることには変わりないと判断しました。
階段を上り、ドアを開け、私は空というものを初めて目にしました。そこで、私の記録は一度途切れます。起動が早すぎたこと、昼の電力供給を怠ったことで、私の電力の絶対量が不足したために、強制スリープ状態に入ったためです。
ほどなくして再起動すると、博士、助手さん、バイトの方が私を見ていました。どうしたのか、と訊ねると、心配していたのだ、と博士から声が返りました。身体を起こしてみると、作業をしていた、いろいろな方が私を見ていました。整備ポットから身体を起こし、私は頭を下げます。心配をされていたということが分かれば、お礼をするべきだということは登録されていたからです。
夜、彼は自分で食事を作ると言い出しました。昼食も自分で作ったようです。確かに彼の手際はよく、料理は得意なのだと判断できました。食事が始まると、私は空について話しました。とても、美しかったと。ただ私のデータは倒れたときに破損したのか、空を再描画することができなくなっていました。すると彼は笑って、そんなもの、外に出ればいつでも見れる、と教えてくれました。
疑問があります。何故博士は、私を外に出してくれないのでしょうか。
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