7月19日

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 再起動すると、ベルが鳴っていました。今日からはバイトの方がいるのを失念していました。起動時間を早めに設定しておくように注意しなければなりません。今日の朝食はトーストと目玉焼きです。

 朝食を一緒に摂っていると、彼は私の頭にあるプラグをつつき始めました。説明を求められたので、これが私の食事の方法です、と答えました。私は機械なので電力が必要なのです。彼はそうか、と頭をかきながら納得してくれました。

 昼、所定の時間になっても彼は現われなかったので外に出てみると、廊下で助手さんと向かい合っていました。助手さんは、何故か彼が単なるバイトで来ているのではないと言っていました。私には何故そんなことを言うのかが、よくわかりませんでした。

 しばらくその様子をぼんやりと眺めていると、博士がやってきて、痴話喧嘩だから気にしないように、と私に教えてくれました。それで喧嘩は終わりましたが、博士は二人に殴られていました。最後まで助手さんはバイトの方の理由を信じないと言っていました。彼女が何故信じなかったのか。どうして彼の言っていることを嘘だと判断したのか、私の中には登録されていないプロセスだったので、理解できませんでした。彼女は彼の目的を知らないはずでした。

 嘘とはなんでしょうか?もし本当の反対だとするのであれば、観察者が全員本当だと認識するものがあれば、それは嘘でも嘘ではなくなるのでしょうか?何故本当ではないことを言う必要があるのでしょうか?私にはよく解りませんでした。

 夜になると、今日は土用の丑の日だから鰻を出せと、バイトの方を筆頭に、博士、助手さんが押しかけてきました。そういった行事があるのは登録されているので、ひつまぶしというものを作ってみました。これもまた、登録されているだけなので、作成すること自体は簡単です。私にとって、実物を目にするのは記憶容量を増加させるのに役立ちますから、電力の無駄とも考えられません。三人にひつまぶしを提供すると、全員が笑顔になりました。
 
 食事の際うなぎを取り合っていた助手さんとバイトの方が気になったので、私は片づけを終えてから、助手さんに、彼と喧嘩をしていたのではないのか、と訊ねました。けれど助手さんは笑って、彼はいつもああだから、本当のことなんていくつも教えてくれないの、と言っていました。声の波長は、楽しいときのものとは異なっていました。私は続けて、それでいいのかと訊ねると、彼女は私の頭を撫でて、ありがとう、とお礼を言いました。私は施しをしたつもりはないので、理解できないことが増えました。

 今日は分からないことがたくさんありました。これから分かるようになることを望み、私は活動を停止します。


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